結節性甲状腺腫



【原因】

甲状腺にできた腫瘍で、他の部位の腫瘍と同様良性と悪性があります。腫瘍の原因は他の部位の腫瘍と同じく不明です。



【症状】

甲状腺部位に結節状の腫瘤(しこり)が認められます。良性だと発育は緩徐でその他の症状は認められませんが、時に内部出血をおこすと痛みが生じます。結節の性状に多発性、表面が凹凸、硬い、急速な増大、可動性の不良、リンパ節腫大などがありますと、悪性も考慮しなければなりません。一部(全体の約10%)の特殊な癌(未分化癌)は一日一日増大し、きわめて危険です。また、現在悪性と良性の鑑別には、吸引細胞診が最も感度、特異性が高い検査と考えられています。一方甲状腺に腫瘤があるかどうかの存在診断では超音波検査がもっとも鋭敏である。

甲状腺癌(鳥潟病院 外科 岡村泰彦先生提供)



【治療】

外見上良性と考えられても、約7%に悪性であったという報告もあり、4cm以上の大きさの場合、原則として手術を行い、補助的に放射線療法、化学療法を行います。一部の癌ではその進行がTSH(甲状腺刺激ホルモン)に依存しているとみられることにより、甲状腺ホルモンの投与が有効の場合もあります。未分化癌は良性腫瘍、癌の後に生じるとも考えられるので、一般に結節の大きさが3cm以上であれば、良性と考えられても手術の適応と考えています。
手術の跡ですがあなたにはわかりますか?拡大図(49KB:JPEG)解答



手術の適応

1.全ての分化癌(乳頭癌、ろほう 癌、髄様癌)
2.一部の悪性リンパ腫と未分化癌(限局性の場合のみ適応あり)
 切開生検で診断困難な悪性リンパ腫も適応
3.ろほう性腫瘍 
   a.3cm以上でかつ充実性
  b.細胞診で悪性が疑われるもの
  c.触診、X線、超音波、タリウムシンチなどで
   悪性腫瘍が疑われるもの 
   d.機能性腺腫(Plummer)
  e.5cm以上で圧迫症状や美容上問題のあるもの



甲状腺癌について

  1. 乳頭癌
    甲状腺癌の大部分(90%)以上は分化癌(おとなしい癌)で、乳頭癌と濾胞癌があります。乳頭癌はリンパ節転移が多く、濾胞癌は血液に乗って転移することが多いといわれています。これら分化癌の手術成績は他の癌に比べますと良好で10年以上生存する確率が95%以上ともいわれています。

    予後
    予後は甲状腺から遠くへの臓器へ転移が見られますと、危険度が高くなります。

    治療法
    治療法として現在一番進められていますのが手術です。乳頭癌では甲状腺の亜全摘(一部を残す)+リンパ節の除去が一般的です。反対側に転移していたり、遠くの臓器に転移してアイソトープの治療を予定していますと、甲状腺を全部とることがあります。施設の制限があり日本ではアイソトープの治療はどこでもできるというわけではありません。転移しているリンパ節はできるだけとってしまうことが多いです。

    かなり進んでしまった進行癌では、気管を切除したりします。また食道、喉頭にも癌が進む事もあります。また遠くの臓器(脊椎が多い)へ進展してしまったときはアイソトープの治療を行います。甲状腺組織はヨードを取り込む性格がありますので、甲状腺癌もヨードを取り込むことが多いのです。そのヨードに放射能をつけたもの、すなわちアイソトープで甲状腺癌をやっつけるわけです。

    通常の抗がん剤の効果は低く、甲状腺ホルモン治療が行われます。TSHは甲状腺を刺激しますので、癌も同じように刺激します。この刺激を取り除くために、甲状腺ホルモンをTSHが感度以下になるまで投与します。

  2. 濾胞癌
    濾胞癌は手術をする前に診断するのはとても難しいのです。エコー、吸引細胞診を行ってもなかなかわかりません。したがって、見つかったときは大きくなっている事が多いのです。手術予後も血管を伝って遠くの臓器に転移さえしなければ予後は良いです。この濾胞癌の悪性度、大きさと関連があるのにサイログロブリンの増加があります。手術後の経過を見るのにもこのサイログロブリンが適しています。

  3. 微小癌
    無くなったときの解剖、他の病気で偶然見つかる15mm以下の癌を微小癌といいます。日本人では解剖しますと、その28%に甲状腺に微小癌が偶然発見されます。癌がありながら、小さいまま成長しないことが考えられます。5mm以下の小さな微小癌については放置しても成長する確率は少ないので経過観察でよいという意見と、すぐに甲状腺を半分切除した方がよいという意見があります。

  4. 甲状腺悪性リンパ腫
    この悪性リンパ腫は、慢性甲状腺炎から発生すると考えられています。急速に増大する甲状腺種が特徴です。約5000例の慢性甲状腺炎の経過3年から20年みますと、数例に発生したという報告があります。超音波検査が診断に役に立ちます。治療は放射線治療と抗がん剤の組み合わせに効果があり、予後は良好です。10年生存する確率はリンパ腫が頚部に限局していれば80%以上との報告があります。

  5. 未分化癌
    甲状腺癌の大部分は、たちのよい分化癌(乳頭癌、濾胞癌)に対して、最悪の癌です。発見したときは通常全身に転移していたり、あまりにも急速に大きくなるので窒息死することも少なくありません。通常1年以上生存することはまれと考えられていましたが、早期に適切な化学療法にて1年生存するのが約38%となってきました。みるみるうちに、日に日に甲状腺が大きくなる場合は一刻の猶予もありませんので適切な医療機関を受診してください。

  6. 髄様癌
    甲状腺癌の1%ぐらいの珍しい癌です。甲状腺の中にある、カルシトニンを分泌するC細胞が癌化するものといわれています。血中のCEA(癌胎児抗原)、カルシトニンの増加が特徴的です。また遺伝するケースがあることも知られています。この遺伝する場合、遺伝子解析ににより発ガンの発生予測がなされていおり、診断の信頼性もとても高くなっています。このために保因者がわかったときに発病する前に甲状腺を全部とってしまうこともあります。遺伝する場合、副腎皮質の褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症も合併に注意しなければなりません。治療は分化癌と同じく手術が第一選択となります。10年生存率も90%以上で良好です。